遠視は、努力しないと遠くも近くもピントが合わない状態です。
遠視の放置は、弱視や斜視につながるケースがあり、結果的に視力の発達に影響を与える可能性があります。そのため、眼科医と相談をしながら適切な治療やトレーニングを取り入れましょう。
この記事では、子どもの遠視の原因や治療法などを詳しく解説します。乱視や近視との違いや、メガネの必要性なども合わせて知りたい方は、参考にしてください。
1982年大阪大学医学部卒業。2019年より大阪大学大学院生命機能研究科特任教授に就任。小児眼科、弱視斜視、眼光学、ロービジョンなどを専門とする他、一般眼科にも取り組んでいる。
子どもの遠視は、眼球の成長が未熟なために起こると考えられています。成長とともに眼球が大きくなり、遠視の程度は改善していくことが多いです。
しかし、子どもの遠視は大人と違い、斜視や弱視を誘発するリスクがあるため、早めの治療が重要です。ここでは、子どもの遠視の特徴を詳しく説明します。
子どもの遠視は、網膜の後ろでピントが合う屈折異常の一つです。
ものを見る際、目は光を屈折させて網膜にピントを合わせますが、眼球の長さや角膜・水晶体の屈折力が異なると、ピントのずれが生じます。屈折の状態は眼球の大きさや形で決まり、眼球が標準よりも小さいと遠視になる傾向があります。
子どもの遠視の多くは生まれつきのもので、明確な原因はわからないことが多いです。そのため、妊娠中の出来事との関連性もないとされています。
小さな子どもの遠視は、目の成長過程と深く関係しています。
人は、生まれてから約6歳までの間に視力が大きく発達します。この時期の目の奥行きはまだ短く、多くの乳幼児は生理的な遠視の状態です。
年齢別で見る子どもの遠視、または遠視性乱視の割合は以下のとおりです。
学年が上がるにつれて遠視の子どもの割合は減りますが、小学校高学年になっても約10%の子どもは遠視を持っていると考えられています。近くのものや遠くのものすべてにピントが合いにくい遠視は、視力の発達を妨げる可能性があるため、早期発見が大切です。
遠視の子どもは、視力検査をしてはじめて視力が悪いと分かるケースがあります。
生まれたときから視力が弱い子どもは、見えない環境が当たり前となっており、自分から目の異常を訴えることは少ないです。そのため、日常生活でとくに問題なく見える子どもでも、実は遠視があり目に負担がかかっていたという場合があります。
そのため、子どもに以下の症状などがある場合は注意が必要です。
遠視の子どもは正視の子どもより多く調節する必要があるため、目の負担が大きく、学習や遊びの集中力が続かないことがあります。なかには、ピントを合わせる際に眼球が内側に寄る「内斜視」が見られる子どももいます。
これらの症状に気づいた場合は、早めに眼科を受診しましょう。
遠視は、ピントのずれが生じる「屈折異常」に分類されます。屈折異常には乱視や近視もあり、それぞれの目の状態と見え方には大きな違いがあります。
遠視・乱視・近視の目の仕組みや特徴は、以下の表のとおりです。
遠視と乱視・近視の違い
| 仕組み | 特徴(見え方) | |
|---|---|---|
| 遠視 | 眼球が小さく、網膜より後ろの 位置にピントが合っている |
|
| 乱視 | 角膜や水晶体のゆがみによって、 網膜上でピントが合わない |
ものがぼやけて見える |
| 近視 | 眼球が奥行き方向に長いために ピントが網膜の前で合ってしまっている |
遠くはぼやけて見えるが、近くははっきりと見える |
近視は近くのものにピントを合わせられるため、弱視のリスクは低いでしょう。対して、遠視が強い場合は、常にピントが合わせられない状態が続くため、弱視のリスクが高まります。
ただし、目の状態は一人ひとり異なるため、自己判断で解決せずに適切な検査・診断を受けるのが大切です。
子どもの遠視による視力の発達障害(弱視)は、適切な治療で改善する可能性がありますが、症状の度合いや治療の進め方には個人差があります。
ここでは、遠視の治療法やメガネの重要性、斜視や弱視を併発した際の取り組みについて詳しく解説します。
子どもの遠視は、早期発見・早期治療が重要です。遠視を完全に治す方法はありませんが、弱視を防ぐために適切な治療を受けることは、将来の子どもの視力を守るために欠かせない取り組みです。
子どもの視力は6~8歳頃までに完成するとされ、この時期に遠視によって視力の発達が妨げられると弱視になり、大人になってメガネやコンタクトレンズを使用しても十分な視力が得られなくなる可能性があります。
しかし、適切な治療を早い段階で施せば、弱視のリスク軽減が期待でき、良好な視力が得られる可能性が高まります。
3歳児健診や就学時健診では、視力検査を実施しており、遠視による弱視が早期発見されます。片目の弱視や外見に異常のない弱視は判断が難しいため、視力検査を受けて早期発見につなげましょう。
遠視が原因の斜視や弱視の治療には、メガネが不可欠です。
視機能の発達に関与する感受性は、生まれてから3歳頃までが最も高いとされています。年齢が上がるにつれて感受性は次第に低下し、10歳前後で消えるのが一般的です。
感受性の高い時期にはっきりとものを目で認識することで、視機能が発達します。「メガネは大きくなってからでいい」と考えずに、感受性期を逃さないことが重要です。
とくに、以下の状態が見られる場合はメガネの必要性が高まります。
眼科で精密検査を受けたあと、処方箋をもとにメガネ店でメガネを作りましょう。
遠視が原因で起こる弱視や斜視には、メガネの装用に加えて特別なトレーニングを取り入れる場合があります。
斜視のなかでも眼球が内側に入る「内斜視」が見られる場合は、遠視の度合いをしっかり測定して厳密に遠視を矯正したメガネの装用が必要になります。そのうえで必要なら、光の向きを変える専用のレンズをメガネに貼り付け、治療を進めます。ものがずれて見えるのを防ぎながら、両目を使うのが特徴です。
一方、片方に弱視が見られる「不同性弱視」では、健常な目をアイパッチで隠し、視力の弱い目を優先して使う「遮蔽法」と呼ばれる訓練をおこないます。弱視がある目に刺激を与え、視力の発達を促します。
これらのトレーニングは、必ず眼科医の指示に従って進められます。
子どもの遠視とメガネに関して、よくある質問にお答えします。
遠視の治療用メガネは入浴や就寝時を除き、基本的に常に装用するべきです。
遠視の子どもがメガネを外して近くを見た場合、ピントを合わせる努力が多く必要なため疲れやすく、持続力が低下します。また、メガネを外すタイミングを誤ると、視力の低下や内斜視を併発する可能性があり、学業へ影響が出ることも考えられます。
遠視治療では「良好な視機能を育てること」が重要な目標のひとつです。成長とともに遠視が減り、メガネが不要になる子どももいますが、遠視の症状が軽減する時期や程度には個人差があります。自己判断で外さず、眼科医の指示に従いましょう。
遠視の屈折矯正を目的としたメガネは補助金の対象外ですが、弱視や斜視の治療用メガネには健康保険が適用されます。
9歳未満の子どもが対象で、費用の一部が療養費として払い戻されます。ただし、再作成の場合は5歳未満で前回の給付から1年以上、5歳以上では2年以上、期間を空けなくてはいけません。
子どものメガネに関する補助金制度について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:【眼科医監修】子どもの治療用メガネに活用できる補助金とは?条件と申請の流れを解説
子どもの遠視は、外見では判断が難しい症状です。しかし、遠視の放置は視機能の発達を妨げる原因となり、弱視や斜視を引き起こすリスクを高めます。
遠視を見逃さないためには、子どもの言動や行動に注意を傾けることが大切です。そして、3歳児健診や就学時健診などを活用し、子どもの目の状態を定期的にチェックしましょう。
また、適切なメガネの装用やトレーニングを施せば、良好な視力を得られる可能性があります。早期発見と適切な治療で、将来の子どもの視力を守りましょう。