子どもが近視かもしれないけれど、原因や眼科を受診すべきタイミングがわからず、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。近視は自然に治ることはなく、早期発見と早期治療が大切です。
本記事では、子どもの近視の原因と放置したときのリスクを解説します。親が気付けるサインや眼科を受診するタイミング、近視の進行を防ぐ対策も併せて解説するので、子どもの近視でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
1999年福島県立医科大学医学部卒業。2016年より慶應義塾大学大学院にて「近視」をテーマに研究。医学博士。2020年慶應義塾大学医学部眼科特任講師。現在、麹町大通り眼科院長として子どもの近視治療に力を入れている。
子どもの近視は、ここ40年で大幅に増加しています。
文部科学省が毎年行っている「学校保健統計調査」によると、裸眼視力が1.0未満の子どもの割合は以下のように推移しています。
◆裸眼視力1.0未満の割合
| 区分 | 昭和61年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| 幼稚園 | 21.6% | 26.53% |
| 小学校 | 19.1% | 36.84% |
| 中学校 | 37.2% | 60.61% |
| 高等学校 | 53.0% | 71.06% |
幼稚園では昭和61年度に21.6%でしたが、令和6年度には26.53%に増加しました。小学校では14.93%から36.84%へ、中学校では37.2%から60.61%へと大きく上昇しています。
このように、過去40年間で子どもの視力低下は確実に増加しています。その中でも近視による視力低下が急増しています。その背景にある原因を理解することが、近視の予防や対策を考えるうえで欠かせません。
子どもが近視になる要因には、大きく分けて「遺伝的要因」と「環境的要因」があります。
子どもが近視になる原因のひとつは、遺伝です。親が近視の場合、子どもが近視になるリスクは上がります(※1)。
両親が近視でない子どもと比較して、片親が近視の子どもが近視になる確率は2倍、両親ともに近視の場合はおよそ5倍だといわれています(※2)。
(※1):Low W et al. Br J Ophthalmol. 2010
Chua SY et al:Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015
Jiang X et al:JAMA Ophthalmol. 2020
近年では近視遺伝子検査により、遺伝子の解析結果から子どもの近視のリスクを調べることも可能です。近視のある家系では、成長期に眼の奥行である眼軸が伸びやすい性質があります。
ただし、遺伝子的要因があっても、近視になりにくい生活習慣や適切な対策を行えば、眼軸の過度な伸長を抑え近視の進行を防げます。
実際に、両親が近視のお子さんでも屋外で過ごす時間を長くすることで、両親が近視でないお子さんと同じくらい近視になるリスクが抑えられるといった研究結果もあります。(※3)
(※3):Jones LA et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2007
子どもの近視には、遺伝的要因に加えて、生活習慣や目の使い方など環境的要因も影響しています。環境的要因は、外遊びの減少や至近距離での作業の増加が挙げられます。
屋外活動の時間が減ると、近視のリスクが高まるといわれています。太陽光に含まれているバイオレットライトが、近視の進行をゆるやかに抑制する効果があるためです。
バイオレットライトとは、紫外線に近い380nm(ナノメートル)付近の可視光線のうちの紫色の光で、蛍光灯やLEDには含まれていません。また、最近の窓ガラスやメガネのレンズの大半が紫外線をしっかりカットするため、室内にいるとバイオレットライトが目にほぼ届かないのも原因のひとつです。
以前は外遊びなどで太陽光を浴びる機会が多く、それが近視予防につながっていました。しかし、現在は家の中で遊ぶ時間が増え、バイオレットライトの効果が薄れて近視の子どもが増えたのではないか、とも考えられています。実際に週14時間以上屋外で遊ぶ子どもは、14時間未満の子どもに比べ、リスクが0.2倍に下がっているという調査も報告されています(※4)。
(※4):Saxena R et al. PLoS One. 2015
最近はスマートフォンやゲーム機の利用時間が増え、受験勉強などで机に向かう時間も長くなりました。こうした生活習慣の変化が、子どもの近視増加に影響しています。
ビデオゲームを週4時間以上する子どもの場合、近視になるリスクはビデオゲームをしない子どもに比べて8.1倍に達するという調査があることからもわかります(※5)。
(※5):Saxena R et al. PLoS One. 2015
睡眠不足と近視の関連は複数の研究で示唆されています。就寝時間が遅く、睡眠時間が短い子どもほど近視になりやすいという報告があります。
これは、睡眠不足がサーカディアンリズム(体内時計)を乱すためと考えられています。体内時計は、網膜のドーパミン分泌に関与しており、ドーパミンには眼球の成長を制御し、近視の進行を抑制する働きがあることがわかっています。睡眠不足によりドーパミン分泌が減少すると、眼軸長が伸び、近視が進行しやすくなる可能性があります(※6)。
(※6):Read SA., Collins MJ., & Vincent SJ. Ophthalmic & Physiological Optics. 2018
子どもは成長に合わせて視力も変わりやすく、その原因と対策は年齢によって異なります。
子どもの近視の原因と注意すべきことを、年齢別に解説します。
この時期はまだ視覚機能が発達段階にあり、眼球の成長も著しいため、生活環境がその後の近視リスクに大きく影響します。
この頃から、近くのものを長時間見続ける習慣が定着すると、近視の原因となることがあります。
特に注意したいのが、スマートフォンやタブレットの使いすぎです。長時間、画面を近い距離で見続けないよう、使用時間を決めて守ることが大切です。また、室内での遊びだけでなく、意識的に外に出て体を動かす時間を作り、遠くを見る機会を増やしてあげましょう。さらに、絵本を読むときや遊ぶときの正しい姿勢を教えることも重要です。
この時期は、視力検査で近視と診断されることは比較的少ないですが、近視を招く生活習慣の芽を摘むことが最も重要です。
また、異常を早期に見つけるために、3歳児健診は非常に重要な機会のため受診することをおすすめします。
5〜6歳は、視力が成長し大人の視力に近づく時期です。この段階で異常があれば、早めの対応が必要になります。未就学のお子さんは弱視の方も多いですが、近年は就学前から近視を発症するお子様も多いので注意が必要です。
こうした異常を見逃さないために、就学前検診が重要な役割を果たします。もし検診で異常を指摘された場合は、早急に眼科を受診しましょう。
また、外遊びの習慣をつけ、将来的に太陽光を浴びる時間を増やすことで、近視の予防につなげることもできます。
近視は小学生から進行しやすいといわれています。就学によって学習など目を使う機会が増えるほか、幼いころからスマートフォンやゲームなどに慣れ親しんでいたり、屋外での遊びが減ったりしていることが要因と考えられます。
また中学生、高校生以降は受験勉強に向けて、塾や学校で文字や画面を見る機会が増えるお子さんも出てくるかと思いますので、文字が読みづらくなった等の小さな違和感には注意が必要です。
近視は早期発見・早期治療により進行を抑えることが可能なため、小学校入学後の検診、学校の身体測定を通じて異常を早期に確認することが大切です。学校の検診で目に異常があるといわれたら、早めに眼科を受診しましょう。
子どもの近視は、目を細めるしぐさがわかりやすい徴候ですが、その他にも日常のちょっとした行動に表れることがあります。親が早めに気付けるよう、代表的なサインを紹介します。
近視が進むと、子どもは見えにくさを補おうとして自然と姿勢が崩れることがあります。例えば、本やゲーム画面に顔を近づけたり、テレビを見るときに必要以上に前に出てしまったりするケースです。
会話の中からも、近視進行に気付ける場面があります。外遊びでボールを追うときや、遠くのものを指さして「見えない」と言うときは、視力低下のサインかもしれません。
親が普段から注意深く子どもの様子を観察することで早期発見につながります。
子どもの近視を放置すると、進行が速まり強くなることによって、眼球が大きくいびつになり、将来的に深刻な目の病気につながる可能性があります。ここでは代表的なリスクを解説します。
近視は自然に治ることはありません。そのため、治療をせずに放置するとさらに進行してしまいます。また、屋外活動の減少や、長時間の読書やスマートフォンの使用、寝転んで画面を見る、といった生活習慣は近視の進行を助長するため、できるだけ避けることが大切です。
近視が強くなる(強度近視)と病的近視へ進行する可能性があります。これらは、緑内障や近視性脈絡膜新生血管症(きんしせいみゃくらくまくしんせいけっかんしょう)、網膜剥離(もうまくはくり)といった合併症を将来発症するリスクが高くなります。将来的に視覚障害を起こす恐れもあるため、近視が急速に進行する子どものうちに対応することが効果的です。
子どもの近視は、早期に気づいて対応することが大切です。
まず目安となるのは、学校の視力検査の結果が前回より悪化したときです。A判定がB判定に下がる、B判定がC判定になるといった変化が見られたら受診しましょう。両目ともA判定でない場合も、早めの受診が望ましいです。親が近視の場合は、遺伝により子どもも近視になる可能性が高まるため、特に注意が必要です。
また、本やテレビに極端に近づいて見る、目を細める、姿勢が悪くなるといった行動が見られたら、視力低下のサインかもしれません。こうした変化に気づいたにもかかわらず受診を先延ばしにすると、近視が進行して重症化する恐れがあります。
少しでも異常を感じたら、ためらわずに眼科を受診することをおすすめします。
近視は一度進むと自然に改善することはありません。しかし、日常生活の工夫によって進行を遅らせることは可能です。ここでは代表的な対策を紹介します。
近視の発症予防には、屋外活動の時間を増やすことが有効だとされています。太陽光を浴びることが良いとされており、この際窓ガラスを通してではないことが重要で、直射日光のみならず、建物の影や木陰でも十分です。
理想的なのは1日2時間、週合計で14時間以上の屋外活動です。1回で2時間まとめて確保する必要はなく、学校の休み時間や放課後に公園で遊ぶなど、短時間の活動を組み合わせるだけでも効果があります。
新型コロナウイルスの自粛期間をきっかけに屋外活動の時間は大幅に減っています。家のなかで過ごすことが当たり前になっているため、意識的に屋外活動の時間を確保するようにしましょう。
勉強や読書、スマホやゲームなど、近くを見る作業を長時間続けることは、子どもの目に大きな負担をかけ、近視進行の大きな原因となります。近視の進行を予防するためには、近くを見る時間を短くすることが大切です。
ただし、勉強や読書で近業がやむを得ない場合もあるでしょう。その場合は、以下の注意点を意識することで、視力低下・近視の予防につながります。
・対象から30cm以上目を離して見る
・20~30分ごとに5分程度、窓を開けて遠くを見ることによって目を休ませる
・部屋を明るくする
・使用機器の明るさを適切に調節する
特に、年齢が低い子どもほど、短い間隔で休憩を取り入れることが大切です。参考までに、WHO(世界保健機関)は20分ごとの目の休憩を推奨しています。
お子さんの視力は、日々の生活の中で徐々に変化することが多いため、親御さんからの声かけが大切です。たとえば、散歩中に遠くの看板を指さして「あれが読めるかな?」と聞いてみたり、テレビを見るときに顔を近づけていないか確認したりすることで、視力の低下にいち早く気づくことができます。日頃からお子さんの見え方に関心を持つようにしましょう。
学業やスポーツに影響がある場合は、視力にあわせたメガネをかけることで、視力低下・近視予防の効果が期待できます。
昔はメガネをかけると近視が進む、弱い眼鏡が近視進行を抑制するといわれていましたが、抑制する効果はなく、むしろ現代では適切なメガネが近視の進行を抑制するという意見もあります。
低矯正(弱いメガネ)が近視の進行に及ぼす影響を評価した論文では、低矯正グループは完全矯正グループ(1.0見えるメガネ)と比較して、近視の進行がより速く、眼軸長の伸びも大きいことが明らかになりました(※7)
(※7):Logan NS and Wolffsohn JS. Role of un-correction. Clin Exp Optom 2020
これは一旦メガネによる視力向上によって学力が向上したが、その後、適切かつ継続的な屈折矯正の介入を行わなかったためさらなる学力向上に結び付かなかった可能性を論文の中で示唆されています。子どもの視力は短期間で変わるため、定期的に眼科を受診し、そのときの視力に適したメガネを用意することが大切です。
メガネをかけることと学力向上に直接的な関わりはないものの、物がはっきり見えるようになることは子どもの能力を引き出すためには必要だといえるでしょう。
実験開始から2年後に行われたテストでは、メガネを与えられた生徒たちの継続的な成績向上は見られなかった。研究チームはこの理由を、生徒がメガネを壊したり紛失したりしたことで、だんだんとメガネをかけなくなっていったためとみている(※8)。
(※8):Neitzel AJ et al. JAMA Ophthalmol. 2021
近視の進行や合併症を防ぐには、早期発見と適切な治療が欠かせません。学校検診だけで安心せず、眼科での定期的な視力検査を受けるようにしましょう。異常が見つかれば早い段階で治療を始められ、重症化を防ぐことにつながります。
外遊びの減少やスマホ・ゲームの普及により、子どもの生活習慣は大きく変化し、近視は40年前と比べて大幅に増加しています。
最近では近視発症直前、発症早期からも近視の治療ができるようになりました。近視が進行して、失明につながりうるような合併症を発症させないように早期発見と早期治療が大切です。子どもの様子に異変を感じたら、ためらわず眼科を受診しましょう。
屋外活動を増やす、スマホやゲームの時間を減らす、定期的に視力検査を受けるなど、日常の工夫が近視を予防・抑制につながります。