子どもの視力が低下していると感じたとき、学力に影響が出ないかを心配する方もいるのではないでしょうか。
視力低下と学力低下に直接的な関係はないものの、黒板の文字が見えにくく、授業内容を理解できなかったり学習意欲が落ちたりすることで、結果として学力が低下することは考えられます。
本記事では、視力の悪い子どもが増えている現状とその背景や、視力の低下が学力に及ぼす影響などを詳しく解説します。子どもの視力低下や近視を予防する方法も解説していますので、子どもの視力低下が気になる方はぜひ参考にしてください。
1999年福島県立医科大学医学部卒業。2016年より慶應義塾大学大学院にて「近視」をテーマに研究。医学博士。2020年慶應義塾大学医学部眼科特任講師。現在、麹町大通り眼科院長として子どもの近視治療に力を入れている。
日本で視力の悪い子どもが増えている現状とその背景について、詳しく解説します。
文部科学省の調査によると、以下の表のとおり、小学校・中学校・高校生ともに裸眼視力1.0未満の子どもは増加傾向にあることが分かっています。
また、裸眼視力1.0未満の子どものうち、約8~9割は近視であると指摘されています。そのため年々増えている裸眼視力1.0未満の原因は近視の増加と考えられており、近視の原因や予防策を知っておくことが裸眼視力1.0未満の子どもを減らすカギと考えられています。
近視を招く背景には、遺伝的な要因と環境的な要因が挙げられます。
近視の環境的な要因は、主に長時間の近業と屋外活動の減少の2つです。
特に日本を含めて中国・韓国・インドなどのアジアには教育熱心な国が多く、受験生は長時間机に向かって勉強する習慣が強い傾向にあります。また、スマートフォンの普及も近業を増やす一因となっています。このように長時間の近業が増える一方で、必然的に屋外で活動する時間が減少してしまいます。
屋外での活動は、子どもの近視の進行を遅らせる効果が多数の研究で示されています。近視予防には1日2時間以上外で過ごすことが推奨されており、これは、太陽光の明るさや太陽光に含まれる特定の光(バイオレットライト)が目の成長に良い影響を与えるためです。
実際に台湾やシンガポールなどでも、国を挙げて屋外活動を推進した結果、近視の発症率が減少したと報告されています。
したがって、「勉強のしすぎで目が悪くなる」と言われるのは、勉強そのものが直接の原因ではなく、長時間の近業と予防効果のある屋外活動の減少が近視を招くためです。
視力の低下が子どもの学力に及ぼす影響について、詳しく解説します。
近視によって視力が低下すると、黒板の文字が見えないことで「授業の内容が理解できない」「学習意欲が落ちる」といった状態に陥る可能性があります。
遠視によって視力が低下すると黒板だけでなく、勉強をするときに手元の教科書やノートなど近くのものも見えにくくなり、イライラしたり落ち着きがなくなったりする可能性があります。
目を凝らすようになると目が疲れ、集中力の低下を招くことも考えられます。このように、間接的な影響ではありますが、視力の低下によって学力が落ちることはありえるでしょう。
「視力の悪い子どもにメガネをかけさせたところ、成績が向上した(※1)」という研究データがありますが、1つの論文だけで結論づけることはできません。
この研究では日本の基準でいう視力1.0に満たない子どもにメガネをかけさせていますが、一般的には視力0.7以上あれば黒板は見えるため、学校生活には支障がないといわれています。
メガネによる視力矯正は、必ずしも子どもの成績を向上させるわけではありません。しかし、物がはっきり見えるということは、子どもの能力を引き出すために大切なことです。そのため、近視だけでなくあらゆる屈折異常には適切な視力矯正が必要といえるでしょう。
米国のジョンズ・ホプキンス大学などの研究チームが2016年から19年にかけて、小学3年生~中学1年生に当たる年齢の生徒2304人を対象に、比較試験を実施。2グループに分けた生徒の一方には視力検査に基づいて適切なメガネを与え、もう一方にはメガネを与えなかった。実験開始時と1年後に行ったテストの結果を2グループで比較したところ、メガネを与えられた生徒たちは与えられなかった生徒たちに比べ、成績が向上した(※1)。
(※1):Neitzel AJ et al. JAMA Ophthalmol. 2021
子どもの学力低下を防ぐには視力低下を早期発見することが大切です。そこで、子どもの視力低下を示すサインについて詳しく解説します。
子どもが以下のような行動をとっている場合、視力が低下しているサインかもしれません。
● テレビを見るとき画面に近づくようになった
● スマホ・タブレットを見るときや本を読むときに顔を近づけるようになった
● 遠くのものを見るときに目を細めるようになった
ただし、上記のようなサインが見られたからといって自己判断で済ませず、必ず眼科を受診し「近視なのか」「原因は何か」を診断してもらうことが大切です。
なお、子どもの行動から視力低下に気づけない場合もあります。そのため、定期的に眼科を受診し、子どもの視力を把握するようにしましょう。
ここでは、子どもの視力低下、その中でも近視による視力低下を防ぐ方法をご紹介します。
子どもの近視進行を防ぐには、日々の生活習慣を見直すことが大切です。まず、近視予防に効果的だといわれる屋外活動の時間を増やすように心がけましょう。目安として1日2時間を確保し、まとめてでなくても、短時間の活動を組み合わせることでも有効です。
また、勉強やスマートフォンなど、近くを長時間見続ける作業は控えめにし、30分に1回は目を休ませるようにしましょう。この時、対象から30cm以上離れることや、部屋の明るさを適切に調節することも重要です。
さらに、学業や生活に影響がある場合は、視力に合ったメガネを着用することが近視の進行を防ぐ効果につながります。子どもの視力は短期間で変わることがあるため、定期的に眼科を受診し、その時の視力に適したメガネを用意することが重要です。
詳しくはこちらの記事でご紹介しています。
視力が低下すると黒板の文字が見えにくくなり、「授業内容を理解できない」「学習意欲が落ちる」などの状態に陥る可能性があります。その結果、学力の低下につながることも考えられます。
子どもの学力低下を防ぐためにも、視力低下・近視の予防策を早めにとることが大切です。
なお、メガネをかける場合は、そのときどきの視力にあわせたものを選びましょう。子どもの視力は短期間で大きく低下することもあるため、定期的に眼科を受診することをおすすめします。