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Heatherwick Studio×JINS 水のようなメガネができるまで。開発にまつわる、Heatherwick STUDIOとJINSとの開発秘話を公開中。

自然の美しさを、
かたちにする。

デザインとは、
機能的で正しい形を描くことではありません。

それは、一本の線を、
一本のメガネへ変えること。

今回のコラボレーションで
ヘザウィックスタジオが提案したのは、
既存の方法にとらわれた完成図ではなく、
全く新しい発想でした。

その発想を、
量産できる一本の眼鏡へと翻訳したのが、
JINSの開発チーム。
これは、新しい価値が生まれるまでのストーリー。

Interviewer

輪湖雅江ライター・編集者

美術と手仕事と建築まわりが主な活動分野。『BRUTUS』『GINZA』などの雑誌のほか、建築家・谷尻誠の書籍『CHANGE』(エクスナレッジ)、井上涼『びじゅチューン』DVD BOOKシリーズ(小学館)など/アートや工芸からファッションまで、ものづくりに携わる人の取材が好き。JINSのメガネづくりにも「挑み続ける職人魂」を感じます。

01“水みたいなメガネ”の誕生

水面に広がる波紋、
刻々と形を変える液体の流れ。
自然界の有機的な造形を想像させる、
かつて見たことのないデザイン。

このメガネは、一体どのように誕生したのだろう?
その秘密を知りたくて、ものづくりの背景を
追いかけました。

発売するやいなや、「水のようなメガネ」と呼ばれて注目を集めるようになったメガネがあります。水のように透き通ったフレームと、川の流れのようにうねるフォルム。親しみを込めた呼び名とともにSNSで広まったこのメガネは、ロンドンと上海を拠点とする「ヘザウィックスタジオ」とJINSのタッグによる新たなアイウエアです。

ヘザウィックスタジオは、ニューヨークの「リトルアイランド」など大規模な建築にたずさわる世界的なデザイン集団。アイウエアコレクションを手がけることは、彼らにとって初めての試みとなりました。

そもそもの始まりは2024年9月。「自然と人の共生」を大切にするヘザウィックスタジオがJINSに提案したコンセプトは、「Liquid(液体)」でした。水面に広がる波紋、絶え間なく動き続ける川の流れ、雨上がりの樹々から落ちる水滴。自然界が生み出すさまざまな有機物の中でも、とりわけ捉えどころのない形を、彼らはなぜメガネにしようとしたのでしょう。

メガネは、その人自身を静かに語る、とても親密な存在です——。ヒントは、ヘザウィックスタジオのエグゼクティブ・パートナー兼グループリーダー、スチュアート・ウッド氏が説明した言葉にありました。

さまざまに形を変えながら自然界を潤していく水のように、かければ一人ひとりの顔にすんなりなじんで個性を引き立てる。ヘザウィックが思い描いたのは、そんなアイウエアだったのです。

02JINSが受け取ったのは
デザインの“思想”。

ヘザウィックスタジオが提案したのは、
単なる形ではなく考え方。
その思想を受け取ったJINSは
形のないものを一本のメガネにするために
未経験のプロジェクトへの一歩を踏み出しました。

「こんなメガネ見たことない!」「どうやってかけるの?っていうか、どうやって作る?」ヘザウィックスタジオからの提案に、JINSのプロジェクトメンバーは沸き立ちました。例えばそれは、金具まで水に浮いているように見えるアイウエア。明らかに、いつものものづくりとは違う取り組み方が必要です。未知の形に挑むワクワク感と、誰もが日常の中で“メガネ”として使えるプロダクトにしなければというアイウエアブランドとしてのプロ魂の、せめぎ合いが始まります。

特にJINSのプロジェクトメンバーの頭を悩ませたのは、螺旋を描きながら勢いよく流れる水のようなフレーム。ヘザウィックスタジオから届いたアイデアのイメージを忠実に再現しようと、最初は考えていたのです。けれど、どんなにうまく螺旋状のフレームを作ってもなにかが違う……。

その葛藤はJINSがものづくりをするうえで大切にしている「“っぽい”ものでは意味がない」という考えに立ち返ることでもありました。大切なのは「Liqiuid(液体)」というコンセプト。螺旋の形にこだわるより、別の方法で液体に近づくことを考えよう——東京とロンドン、互いのオフィスも訪ね合って、密にスピーディにやりとりを積み重ねました。

03自然を「かたち」にできる?

有機的で不規則な曲線を、量産できるプロダクトへ。
デザインと技術、両方の視点からアプローチしつつ、
JINSがたどり着いた最適解にせまります。

メガネの形は一般的に左右対称。1点ものの手作りメガネならいざしらず、工業製品で左右の形が異なるモデルが選ばれることはほとんどありません。ところが、JINSがたどり着いたデザインは左右非対称。ナミナミと波打つような曲線のシルエットが特徴です。左右が異なるデザインを意識したのではなく、水という有機物をモチーフにしたら自ずとそうなった。自然界にあるものの多くは、完璧な左右対称ではないのです。

自然界の姿を形にした今までにないメガネ……とはいうものの、作りたいのは美術品ではなく、量産可能で、かけられるメガネ。素材も作り方も簡単には見つかりません。半年以上かけて決まったのは、液体のシズル感や透明性を可視化できる樹脂製のフレームと、堅牢で存在感のあるチタン製のフレーム。

とくに大変なのはチタンです。普通ならばメガネの型を作って金属を流し込むところですが、それでは自然界にある有機的な凸凹が作れない。複数の工場に打診し、何十回もテストを繰り返し、ようやく導き出されたのは、「メガネの製造では使わないプレス機を使い」「叩いて成形する」という、とんでもなく手間のかかる方法でした。

まずは厚みが20ミリもあるチタンの板に型を当て、通常の5倍以上の圧でプレスします。それを叩いて——つまり、昔の刀鍛冶が鋼をトンカンやって刀剣を造るような工程を機械で行って、ナミナミの形をした薄さ4ミリのフレームを成形。最後は職人の手で細かな凹凸を研磨するのですが、成形と仕上げだけで、いつもの10倍の時間が必要です。

樹脂もしかり。樹脂を流しこむ金型は3Dで作ります。コンピュータ入力だけでは左右対称になってしまうため、キャドオペレーターが手作業で細かく調整しながら図面を引き、有機的な線を生み出すのです。成形した後は、いわゆる“バリ”をゆっくりと磨きながら取りのぞき、特徴的なナミナミに仕上げていく。その磨き工程だけで約4日間。妥協するという選択肢は、JINSチームにもヘザウィックスタジオにもありませんでした。

04本当の黒を完成させるために。

色、透明感、手触り、掛け心地。
自然が持つ繊細な表情をフレームに宿すために、
トライ&エラーを繰り返す。

そんなJINSがとりわけ熱心に追い求めたのは、
自然界にある「本当の黒」でした。

「いつもの黒とは違う、本当の真っ黒です」と話すJINSチーム。今回、樹脂バージョンの色としてヘザウィックスタジオが提案したのは、水生植物や琥珀、ロンドンの霧といった自然界の彩りです。黒もそのうちの一つで、イメージは「黒曜石の上を流れる水」の色。

実は「黒には無限の階調がある、いちばん手ごわい色」と言われるほどで、特に真っ黒を出すのは至難の業。しかも樹脂の場合は白っぽくもったりした黒に転びがちです。それでもJINSチームは、何度も何度も色の調合を変え、シャープで艶のある本当の漆黒を実現。「黒曜石は太古の人たちも見てきた黒。ここはこだわりたいよね、という気持ちが強まったんです」

一方で、透き通った水のようなフレームを作る際のネックとなったのが、繋ぎの部分に必要な丁番金具です。透明なフレームに金属の金具が見えてしまうのは興ざめだよね……と、それぞれのチームや工場がアイデアを出し合いました。

例えば「水に浮かぶ気泡のような丁番はどう?」、あるいは「丁番もナミナミの形にすれば、フレームと同化して揺らいで見えるかも」。さまざまな試作を繰り返して得た答えは、シンプルで堅牢な丁番を透明なプラスチックで作る方法。テンプルに施されたブランドロゴが、まるで水中に浮かんでいるように見えるのもまさしくLiquid。

05技術を飛躍させた
コラボレーション

このコレクションがもつ面白さの本質は、
ヘザウィックのデザインでも、
JINSの技術でもありません。

異なる視点を持つ二つのチームが、
有機的なメガネという共通テーマに挑戦し、
新しいプロダクトを生み出したことにありました。

2026年5月。ようやく完成したアイウエアには「水のような、波のような、とても斬新なデザインだけれど、かけてみたら意外となじむ」という声が多く寄せられました。

自然っぽいデザインではなく、自然の本質をデザインすること。かける人の個性を祝福するプロダクトを作ること。なにより、誰も見たことがないものを作ること。そのビジョンを貫くため、ヘザウィックスタジオは時に柔軟に、常に強い意思を持ってデザインを探り続け、JINSチームはコツコツと培ってきたメガネづくりの技術と知見を全力で発揮しました。

メンバーの一人いわく、「ヘザウィックはデザインのプロフェッショナルだけれど、眼鏡に関わるのは初めて。僕らでは思いつかないアイデアや、“テンプルの畳み方をそこまで追求する!?”というようなこだわりが飛び出してくることが本当に刺激的で、だからこそ我々も工場も全力でチャレンジできました」。

JINSにとって「自分たちが知っているメガネ」ではないものを、日常のプロダクトとして精度高く作れたのはなぜだったのか。理由の一つは、プロジェクトに関わる全員が、実現すべきなのは「形」ではなく「思想」であることを、解像度高く共有していたからでしょう。つまずいてもコンセプトに立ち返ることを、工場の職人たちも胸に刻んでいた。だからこそメガネづくりの定石にとらわれず、「分厚い金属を圧縮して叩くことで、手仕事のような表情を出す」「左右非対称のフォルムを作る」という前代未聞の手法に挑戦できたのです。

JINSのものづくりに“できない”という選択肢はありません。一人一人が、常に“できる方法”を考え、よりよい道筋を見極めようと本気で努力する。みずみずしく軽やかな「水のようなメガネ」の背景には、JINSが培ってきたものづくりの哲学とカルチャーが広がっているのです。

ロンドン・上海を拠点に活動するデザイナー集団の 「ヘザウィック スタジオ」。都市開発から建築、 プロダクトまで、多様な領域で革新的なプロジェクトを 推進し、デザインによって新たな体験価値を創造する、 世界で最も注目されるデザインスタジオの一つです。

Magazine「」で
ご紹介いただきました。

Magazine「BRUTUS」でご紹介いただきました。

建築家がメガネを作ったら。
長場雄と伊藤亜和、「JINS × Heatherwick Studio」を語る