Jasper MorrisonJasper Morrison

ALL ROUND JINS×Konstantin Grcic InterviewALL ROUND JINS×Konstantin Grcic Interview

必要なものを徹底して探る、
コンスタンティンのデザイン

デザインを行うときに、いつも強く心に決めていることがあります。正直で本質的な製品を作るために、不要な要素はすべてそぎ落とすということです。そのために不可欠なのは、全力で各々のプロジェクトに向き合うこと。徹底してデザインに集中して初めて、質の高いデザインを生み出せるのだと信じています。
新しいプロジェクトはいつも、長い道のりの始まりです。今回、JINSとのコラボレーションは、自分が大切にしている点を存分に探究できる機会でした。高品質のメガネを工業製品というスケールでデザインすることは、私がこれまでに関わったどのプロジェクトとも異なる経験でした。

MUJI Markable Umbrella
MAGIS Chair_One
MAGIS 360° Container
RADO Ceramica

メガネを愛用するコンスタンティン。
「でも、メガネのデザインはチャレンジング」

私が初めて視力矯正用のメガネをかけたのは15歳のときです。以来、メガネをかけずに過ごす日はありませんが、いざ自分がデザイナーとしてメガネをデザインしてみると、かなりチャレンジングなプロジェクトとなりました。
当然のことながら、人の顔はそれぞれ異なりますが、量産型メガネを通して一つのモデルが異なる人々にフィットするものであると信じられています。このことは、ある意味で普遍的でありながら、ユニークかつ個人的でもある製品を実現しようという、綱渡りさながらの難しさを含むものです。
本質的な意味で、メガネとは何なのでしょう?
まずは「見る」手助けとなる道具です。同時に、自分が誰であるか、誰になりたいかという、個性の一部を担うのもメガネです。あるいは、人の自信や幸福感に影響するプロダクトでもあるわけです。
さらに技術的なレベルでは、ヒンジなどのメカニカルな点、鼻盛りやノーズパッドの触感といった人間工学的な問題も必然的に関係してきます。
私は家具デザインを専門としているのでこうした点には慣れていますが、微細なスケールのメガネとなると話は全く異なってきます。どのヒンジもネジも半径サイズも、普段扱うサイズよりもずっと小さいのですから。まるで新しい言語を習っているかのようでした。これまでの経験で近いものがあるとしたら、スイスの時計ブランドでの腕時計のデザインぐらいでしょうか。

メガネの起源となるフォルムを探る
「round」というコンセプト

メガネの歴史を振り返り、初期のものはラウンド型であることを発見しました。レンズの形状から導かれた形ですが、考えてみると子どもたちが自然と描くメガネもラウンド型であるわけです。
また、リサーチをして気づいたのは、ラウンド型のメガネは世界中の多くの人の顔になじむということです。

私たちはメガネをかけていることで知られる多くの有名人を研究しました。建築家のル・コルビュジエ、インドのマハトゥマ・ガンジー、ジョン・レノンやスティーブ・ジョブスもそう。デザイナーでは、私にとってのアイコン的存在、イタリアの巨匠、アッキレ・カスティリオーニがいます。
このようにラウンド型のメガネとは、メガネの歴史をその起源にまでさかのぼることができるアーキタイプ(原型)であると同時に、現在も適切で新鮮な感覚を覚える形なのです。ラウンド型のメガネは、最も包括的な形でありながら、誰がかけても特別で、独自の印象を与えます。興味深い点ですね。
実は私が初めてかけたメガネもラウンド型でした。この時はメガネによる自分のイメージづくりなどは考えておらず、最もシンプルなデザインを選択した結果だったのですが…。
メガネをかけ替える楽しみがある現代では、ラウンド型メガネのさまざまな楽しみ方があると思います。

スタジオでまず行ったのは
テンプレートを準備してのスケッチ

ラウンド型の眼鏡のみをデザインすると決めた後の作業は、実寸大の「目」の部分を描いたテンプレートを準備し、さまざまなフォルムを鉛筆やフェルトペンで描いていくことでした。
これらのスケッチには、今回、JINSのために発展させていったデザインの初期段階の発想がぎっしりと詰まっています。
できる限りの可能性を探ろうと考え、好奇心に導かれるままにスケッチを進め、検討を重ねていきました。
こうした時間を経てたどり着いたのが、ラウンド型の8つのデザインです。有機的なフォルムがあれば、幾何学的なフォルムもあります。既存のメガネの再解釈を試みたものなど、アプローチも各々に異なり、それぞれに最適の素材を厳選しています。

プレッツェル、カートゥーン、バイク…それぞれの呼び名と共にデザインが進行

8種のデザインを同時に進めるなかで必要となったのが、名前でした。スタジオのアシスタント、サミとのやりとりにおいても名前は必要で、デザインコンセプトや共有する感覚をもとにした呼び名が、早い段階で誕生しています。
「CARTOON」(カートゥーン)は太いペンでさっと素早く記した線のようなフォルム。「PRETZEL」(プレッツェル)は、お菓子のプレッツェルさながら、有機的で柔らかなフォルムを表現したものです。 「BIKE」(バイク)、「SAFARI」(サファリ)もその名が示す通りの形です。
ラウンド型メガネの伝統的な趣があるのが「NEEDLE」(ニードル)、「BRACE」(ブレイス)、「INLAY」(インレイ)。フレームに異素材を組み合わせた「LINK」(リンク)もあります。
次にスタジオの3Dプリンターでモデルを制作し、それらを自分の顔にかけ、どのように見えるのかを確かめました。デザイン上の容赦ない微調整はどのプロジェクトにおいても非常に大切です。ディテールについて1ミリ以下のサイズでの検証をしたことも覚えています。JINSのデザインチームや技術者とリアルな試作モデルを前に、より密なやりとりが続きました。
東京にいるJINSのデザインチームから受けとる図面には様々な連絡が添えられています。それをもとに、8種それぞれの検討を進めていくかたちです。技術的に大きな問題はありませんでした。私たち全員が納得するまで細かい微調整を続けていくという作業でした。「NEEDLE」について説明すると、フレームのジョイント部の検証をかなり重ねています。「CARTOON」ではブリッジの部分をレンズのリムの内側まで伸ばす点で微調整を続けました。あるモデルの徹底した検証が他モデルに応用されることもあります。複数のデザインを同時に進める醍醐味ですね。
このように、あらゆる面での精密さをそれぞれ探り、課題をクリアにしつつデザインを深めていく共同の作業は、実に有意義なプロセスでした。それらの段階のどれかひとつでもなかったら、私たちが目ざしたものは完成しえなかったと思います。

JINSのチームと探っていった
美しくエモーショナルなディテール

ディテールは重要です。最高のクオリティであると同時に、かけたときに楽しんでもらえる美しいディテールを製品として実現したいと考えました。
テンプルとパーツの間、ブリッジとリムの間に細い線を施している「INLAY」を例に挙げてみましょう。JINSのメガネは現代的な製造方法ですが、パーツを組み立ててきたメガネの歴史、クラフツマンシップを尊重したデザインです。そのことをメガネの持ち主にこそ楽しんでもらえるディテールに仕上げています。

正直なところ、最初に提案した8種全てが商品化されるとは思っていませんでした。提案を尊重してくれたJINSのチームとのコラボレーションによって、それぞれに個性ある商品が実現できたことは本当に嬉しいことです。簡単な道のりでは決してありませんでしたが、他のプロジェクトでは得られなかった今回のコラボレーションに感謝しています。
今回のデザインプロジェクトを通して、JINSはメガネから始まり、どこへでも進んでいける企業であるということも理解しました。精巧なメガネを実現する姿勢や技術のうえで、医療、モビリティ、教育など、生活の質の向上に関するあらゆる分野に進んでいけるのだと。
まさに、All round。そして、Look around、より広い世界に目を向けることの大切さを感じています。
JINS DesignProjectを通して多くの発見がありました。それらを思いながら、今、完成したメガネを手にとっています。